デビュー作の『その言葉を』に続いて書かれた作品。これは三人称の複視点で書かれているのだけれど、最初からそうしようと考えそうした。つまり、この頃、プロで書いていく考えを固めはじめていて、ならば、三人称複視点で書けなければ今後やっていけないだろうと思ったわけである。いま読むと、やや息苦しい感じがあるが、この作品が一番好きだといって下さる読者の方もときどきある。ありがたいことです。
この作品は三島賞、芥川賞、両方の候補になった。いずれも落選したが、選評では、大江健三郎氏から、三島由紀夫みたいになっては駄目だ(そういういいかたじゃないが)と意見された。たしかにこの作品には、三島由紀夫を思わせるところがあるし、実際、三島作品を参考にした面もある。僕自身は、とくに三島が好きではありませんが。とりわけ、あの絢爛たる比喩の連打は、やや気恥ずかしいものがある。『豊饒の海』なんて、かなり恥ずかしい。が、だからこそかえって面白く読める面もあって、小説とは不思議なもんです。
物語は、ある新興宗教に所属する若者たちが、修行の山岳行を行う話である。デビューしたてとあって、山や森の描写など、濃密さを出そうと一生懸命です。物語性ということでいうならばば、いまのところこれが一番高いといえよう。
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