『プラトン学園』
 これは新聞小説だ。むろん新聞に小説を連載するのは、このときがはじめてでした。神戸新聞とか熊本日々とか、地方紙7社に配信されたと記憶している。最初話があったとき、ちょっと作風的に無理ではないかと思い、編集者にそういうと、どんな根拠があるのか知らないが、大丈夫との返事。ちょうど『バナールな現象』を出したところだったので、あんな風なのでいいだろうかときけば、それでいいという。だったら、書きますと、引き受けた。

 だから、これは『バナールな現象』の続編的な意味あいがある。主人公の名前も「木苺」で同じ。『バナールな現象』が「ワープロで書くこと」をひとつの主題としているとするなら、こちらは「パソコンで書くこと」を主題をしているといえなくもないだろう。実際には、この小説は富士通のオアシスで書かれ、当時はまだパソコンは持っていませんでした。

 地方に旅行に行った人などが、連載中の小説を一回だけ読んで、感想をくれたが、どの部分を読んだかで感想が大いに異なるという現象を呈した。ある人は「今度はSFなんだ」と感心し、別の人は「君が恋愛ものを書くとはね」と驚きを表明し、また別の人間は「またミステリーなのね」という、といった具合で、つまり、新聞小説としてはどうなんでしょう? という感じがやや濃厚でした。しかし、一冊の本になってみれば、かなり楽しめる作品になっていると、自分では思います。ことに、登場人物たちが、いつのまにか恐竜に変身して(というかな?)、晩餐をとる場面などは、もっとも奥泉らしいところではないかと思ったりもします。自分でいうのもなんですが。
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